きちんと知っておきたい、相続税が安くなる『小規模宅地等の評価減の特例』について
2016年8月15日
こんにちは。税理士の田口です。
今回のコラムでは最近非常に多くのご相談をいただく「小規模宅地等の評価減の特例」(以下「特例」といいます。)について取り上げたいと思います。
この特例は、簡単に言ってしまえば被相続人(亡くなった方)が住んでいた自宅の土地の相続税評価額が最高で80%も減額になり、結果として相続税が安くなるという優遇税制です。
自宅の土地に対して多額の相続税を課税してしまうと残された遺族が安心して生活できなくなってしまうため、国としてもそれを考慮して設けた制度になります。ただし、その特例を受けるためには自宅の土地を誰が相続するのか、亡くなった方と同居親族がいたのかどうか、生計が「一(同じ)」だったのかどうか等、様々な要件があるので、最初にそのご説明をさせていただきます。
まずは、特例の対象になる土地ですが、次のいずれかに該当する必要があります。
1.被相続人(亡くなった方をいいます。)が住んでいた住宅の土地
2.被相続人と同一生計である親族が住んでいた住居の土地
次にその土地を相続する人が誰になるかにより、適用要件が細かく設定されております。
【上記1の土地に該当する場合で、相続人が以下➀~➂のいずれかに該当すれば特例の適用あり】
➀配偶者
➁亡くなった人と同居していた親族
➂亡くなった人と別居していた親族(➀と➁に該当する人がおらず、その土地を相続する方(その配偶者も含む)が「持ち家」をもっていないこと等、いわゆる「家なき子」特例※)
※基本的には配偶者や同居親族が相続すればこの特例を受けることが出来るのですが、ハの場合は要件が厳しいので注意が必要です。
【上記2の土地に該当する場合で、相続人が以下の➀、➁のいずれかに該当すれば特例の適用あり】
➀配偶者
➁被相続人と生計を「一」にしていた親族
誰が土地を相続するのか以外にも細かい要件がたくさんありますので、是非一度専門家に適用の有無を取って頂きたいのです。特に、特例の適用を受ける場合には、➀相続税が発生するか否かは別して相続税の申告書を税務署に提出して、この特例の適用を受ける旨を記載すること、また、➁相続税の申告期限(相続発生から10カ月以内)までにその土地を誰が相続するか遺産分割協議を行い、特例の適用の対象となる土地を誰が相続するかを決めることが絶対要件ですので、この要件だけは知っておいてください。
少々難しいお話になってしまいましたが、この特例の適用を受けられるかどうかで大きく相続税の納税額が変わってきます。以下、具体的な事例をもとにこの制度のご説明をしていきたいと思います。
(ケース1)父(被相続人)が所有している土地に長男名義で家を建て、父、母、長男家族、が同居していた状態で、長男が相続した場合
→ このケースの場合、母は相続すれば問題なく特例の適用があります。また、同居していた親族である長男した場合も特例の適用があります。家の名義が誰であるかは特例の適用には関係ありません。
(ケース2)父(被相続人)が老人ホームへ入居していたため、空き家になっていた場合
→ 被相続人の居住の用に供されていないため特例の適用がないように思えますが、下記の要件を満たせば適用があります。
➀要介護認定、要支援認定又は障害支店認定を受けており、老人ホームに入所する必要があったこと
➁その空き家を貸し付けたりしていないこと、また、被相続人以外の者の居住の用に供していないこと
実は最近の税制改正により要件が緩和され、老人ホームに入所していた場合も特例の適用が受けやすくなりました。もし、これから施設に入ることを考えていらっしゃる方は憶えておいてください。
(ケース3)父が所有している地続きの土地に2棟の家があり、一方の家に父(被相続人、一人暮らし)が、もう一方の家に長男家族が居住している場合
→ このケースでは、長男が住んでいる家の名義が誰か、また、生計が「一」か「別」かで取り扱いが大きく取り扱いが変わります。
➀家の名義が長男で、父と生計が「別」→ 土地のすべてについて特例の適用なし
➁家の名義が長男で、父と生計が「一」→ 長男が住んでいる家の敷地のみ特例の適用あり
➂家の名義が父で、父と生計が「別」 → 父が住んでいる家の敷地のみ特例の適用あり
➃家の名義が父で、父と生計が「一」 → 土地のすべてについて特例の適用あり
上記の➁~➃のケースに該当すれば、この特例の適用が可能ですが、実際は➀のケースに該当する方が一番多いと思われます。部分的にでもこの特例の適用の適用が受けられるようにするためには、生計を「一」にするか、長男が家を所有していない状態にするのか、いずれかの対策が必要です。
生計を「一」にできるかどうかは現実的には難しいかもしれません。ただ、例えば長男名義の家を父に売却して、長男が家を所有していない状態(いわゆる「家なき子」の状態)にすることは可能です。売却に際して費用もかかり、また、他にも細かい条件がありますので、必ず専門家もアドバイスは受けていただきたいですが、小規模宅地等の適用を受けることで大きく相続税が節税できるのであれば考えてみてもよいかもしれません。
次回もこの特例を取り上げたいと思います。特に「二世帯住宅の場合」のことを中心にお話したいと思います。ではまた。